大判例

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大分地方裁判所 平成元年(行ウ)3号 判決 1991年12月24日

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対し、別紙目録記載の建物について、平成元年二月一七日付でした不動産取得税賦課決定処分を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1(本件処分及び審査請求)

(一)  被告は原告に対し、平成元年二月一七日付で、別紙目録記載の建物(以下「本件建物」という。)の取得に対し、課税標準を五一八五万五〇〇〇円、税額を二〇七万四二〇〇円とする不動産取得税賦課決定処分(以下「本件処分」という。)をし、同月二〇日原告に対し通知した。

(二)  原告は平成元年三月三日大分県知事に対し、本件処分について審査請求をしたが、同知事は同年五月一六日付で右審査請求を棄却する旨の決定をし、そのころ原告に対し右決定書を送達した。

2 しかしながら、本件処分は課税標準を誤った違法な賦課処分である。

よって、原告は本件処分の取消を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の主張は争う。

三  抗弁

1(固定資産課税台帳の登録)

大分市長は、昭和六三年二月本件建物の価格を五一八五万五〇〇〇円と決定し、昭和六三年度の固定資産課税台帳にその旨登録した。

2(不動産の取得)

原告は、昭和六三年一〇月三一日株式会社暖動から本件建物を買受け、同年一二月一六日本件建物について所有権移転登記を経由した。

3 (本件処分)

被告は、地方税法(以下「法」という。)七三条の二一第一項本文の規定に基づき、右固定資産課税台帳の登録価格により本件建物の課税標準を五一八五万五〇〇〇円と決定し、本件処分をした。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は全部認める。

五  原告の主張

1  法は、七三条の一三第一項において、不動産取得税の課税標準は不動産を取得した時における当該不動産の価格としているところ、価格とは適正な時価をいうことは七三条五項の明定するところである。他方、法は、納税者の便宜とともに、不動産評価の統一化・客観化、徴税事務の比較的簡素化・合理化を図ろうという行政技術的な観点から、七三条の二一第一項本文において、固定資産課税台帳に価格が登録されている不動産についてはその価格により不動産取得税の課税標準を決定する旨規定した。

しかし、七三条の二一第一項本文の規定は、あくまでも納税者の立場と行政技術的な観点から、適正な時価を算出する便宜すなわち擬制を与えたものにすぎない。以上の次第で、七三条の二一第一項但書は、特別の事情がある場合は固定資産課税台帳の登録価格によらない旨を規定しており、あくまでも不動産取得税の課税標準を適正な時価とすべき根本原則を実現すべきである(同旨・大阪地裁昭和四一年六月一三日判決・行政事件裁判例集一七巻六号六四四頁)。従って、右の特別事情とは、要するに不動産の固定資産課税台帳の登録価格と適正な時価との間に、齟齬を来たし、もはや登録価格を当該不動産の適正な時価として維持するのが相当でないと考えられる全ての場合が含まれると解すべきである。このことは、法律構造のうえから当然であり、かつ、七三条の二一第一項但書に「当該不動産について増築、改築、損かい、地目の変換その他」と例示していることからも明らかである。

2  ところで、適正な時価とは、取得時における不動産の客観的価格であるが、本来、その算定に際しては取引価格がその主要な資料となるといわなければならない。本件建物は、市街化調整区域に存し、もともと居住用建物の需要は低いという属性を持っているうえ、診療所として建築されたことから構造上居住用建物としての汎用性に乏しく、医師でなければ買受ける者のないような主観的要素に左右される建物であった。そして、本件建物は、取得時に建築後約六年を経過し、修理修繕の必要があり、原告が取得した際の取引価格は三一二〇万円であったのである。

このように、本件建物の適正な時価は取引価格の三一二〇万円であり、固定資産課税台帳の登録価格はこれと四〇パーセント以上乖離しているのであるから、もはや登録価格を本件建物の適正な時価として維持するのは相当ではない。

従って、七三条の二一第一項但書所定の特別な事情があるというべきである。

3  なお、鑑定人高橋薫の鑑定の結果は、本件建物の評価に当たり、本件建物と類似の建物の取引を見出すことができなかったとして取引事例比較法を用いることなく、原価法のみを用いているが、不動産評価の方法として原価法と取引事例比較法とを総合して考慮すべきは当然であり、右鑑定の結果が本件建物の適正な時価でないことは明らかである。また、右鑑定の結果は、本件建物自体の価格を三三二九万五七四七円、附帯設備(電気設備・給排水設備等)の価格を九三八万一四〇二円と評価し、本件建物の価格をその合計額である四二六七万円と評価しているが、これは本来本件建物の評価に加えるべきでない附帯設備の価格を加えるという誤りを犯しているのであって、右鑑定の結果はこの点においても失当である。

4  従って、固定資産課税台帳の登録価格により本件建物の課税標準を決定した本件処分は違法である。

六  原告の主張に対する被告の反論等

原告の主張は争う。原告が主張する本件建物の修理修繕の必要性、取得価格との開差等は、法七三条の二一第一項但書所定の特別の事情に該当せず、他に固定資産課税台帳の登録価格により難い特別の事情はない。

第三  証拠<省略>

理由

一  請求原因について

請求原因1の事実及び抗弁事実はいずれも当事者間に争いがない。

二  原告の主張について

1 法は、不動産取得税の課税標準は、不動産を取得した時における当該不動産の価格すなわち適正な時価と規定しているが(七三条の一三第一項、七三条五項)、右適正な時価の決定について、道府県知事は、固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されている不動産については当該価格により当該不動産にかかる不動産取得税の課税標準となるべき価格を決定するものとし(七三条の二一第一項本文)、当該不動産について「増築、改築、損かい、地目の変換その他特別の事情がある場合において当該固定資産の価格により難いときは、この限りでない」と規定している(七三条の二一第一項但書)ので、固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されている不動産については、右但書に該当しない限り、右登録価格によって当該不動産にかかる不動産取得税の課税標準となるべき価格が決定されることになるわけである。ところで、固定資産課税台帳の固定資産価格登録の制度は、本来、固定資産税の課税標準を定めるためのものであって、右登録価格は毎年二月末日までに市町村長より決定され(四一〇条)、直ちに固定資産課税台帳に登録される(四一一条)こととなっているのであるが、右登録価格の決定はいわゆる行政処分と解すべきであるから、固定資産税の納税義務者が法定の期間内に所定の争訟手続によりその取消変更を受けない限り、右価格は確定し、争うことができなくなるのである。そして、法が不動産取得税の課税標準となる不動産の価格の決定を前記のように原則として固定資産課税台帳の登録価格によらせた趣旨は、固定資産税の課税対象となる土地及び家屋は、発電所及び変電所を除けば不動産取得税の課税対象となる土地及び家屋と同一であり(七三条一号ないし三号、三四一条二号三号)、その価格も等しく適正な時価をいうものとされ(七三条五号、三四一条五号)、その評価の基準も同一であるところから、両税における不動産の評価の統一と徴税事務の簡素化をはかるためであると考えられるのであり、この趣旨からすれば、法は、道府県知事が不動産取得税の課税標準である価格を決定するについては、固定資産課税台帳に当該固定資産の価格が登録されている場合には、法七三条の二一第一項但書に該当しない限り、みずから客観的に適正な時価を認定することなく、専ら右登録価格によりこれを決定すべきものとしていると解するのが相当である。従って、仮に右登録価格が当該不動産の客観的に適正な時価と一致していなくとも、それが法七三条の二一第一項但書所定の程度に達しない以上は、右登録価格によってした不動産取得税の賦課処分は違法となるものではなく、右のような場合には、不動産取得税の納税者は、右賦課処分の取消訴訟において、右登録価格が客観的に適正な時価でないことを主張して課税標準たる価格を争うことはできないと解される(最高裁判所昭和五一年三月二六日第二小法廷判決・裁判集民事一一七号三〇九頁参照)。もっとも、当該不動産の固定資産税の課税標準である固定資産の価格の決定に重大な錯誤があるなどの重大な瑕疵があって、右決定が無効である場合には、右登録価格によってした不動産取得税の賦課処分は違法となるから、不動産取得税の納税者は、右賦課処分の取消訴訟において、右登録価格の決定が無効であることを主張して課税標準たる価格を争うことができると解される。

次に、右の規定に徴すると、法七三条の二一第一項但書所定の事由は、当該不動産について固定資産課税台帳の登録価格決定後に増築、改築、損かいその他経年以外の要因による物理的変動や社会環境の著しい変動が生じ、そのために当該不動産の価格が固定資産課税台帳の登録価格に比して著しく変動したことをいうものと解すべきである。

2  これを本件についてみるに、原告は、本件建物の固定資産課税台帳の登録価格が本件建物取得時の適正な時価から乖離していることを主張するにすぎない。

本件建物について、固定資産課税台帳の登録価格決定後に経年以外の要因による物理的変動や社会環境の著しい変動があった事実は、原告において主張しないところであり、かかる事実を認めるに足りる証拠もない。

また、大分市長による本件建物の固定資産課税台帳の登録価格の決定に無効をきたすほどの重大な瑕疵がある事実は、原告において主張しないところであり、かかる事実を認めるに足りる証拠もない。

従って、原告の主張は理由がなく、本件処分は適法というべきである。

三  結論

よって、原告の本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する

(裁判長裁判官 丸山昌一 裁判官 楠本新 裁判官 山本和人)

別紙 目録<省略>

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